会場: Shinwa Auction
セール: 近代美術/近代美術PartⅡ
日時: 平成30年9月29日(土曜日) 15:00~
落札総額: 270,710,000円(落札手数料含まず)
落札率: 89.33%
作品数: 落札335点、不落札40点
今回は9月29日(土)に開催されたShinwa Auction(シンワオークション)についてレポートする。Shinwa Auctionの特徴としては国内外のすべてのジャンルの作品が出品されているが、特に日本画、洋画については力を入れており、良質な作品が多数出品されている。
今回は国内作家の日本画、日本洋画、版画作品等を中心に375点がセールにかけられた。
出来高は落札総額2億7071万円(落札手数料含まず)、落札率は89.33%であり、前回、今年5月に同会場にて行われたセールと比較すると点数は11点増、落札率が約4.5%増となっている。また、落札予想価格上限を超えての落札が24.5%となっており、全体を通して活況なセール状況であった。
今回のセールの中から目立ったものを紹介していく。
今回の近代美術のセール(メインセール)では彫刻作品が7点出品されており、1点を除き全て落札。また競り状況も活況で5点が落札用価格上限を超えての落札になっていた。
フランス人彫刻家クロード・ラランヌの2006年のブロンズ作品「襟をつけた小さなウサギ」(H35×W14.6cm)が、落札予想価格200万円~300万円のところ、落札予想価格上限のおよそ5倍の1,450万円で落札。今回の作品と同一の別のエディションによる作品が2015年11月24日に行われたSotheby’s Parisのセールで25,000~35,000ユーロ(およそ325万円~455万円)の落札予想価格に対し、62,500ユーロ(およそ812万円)で落札されており、そのため、今回のセールでの落札予想価格が割安に感じられたためか、海外からの電話入札が多く入り300万円を超えたあたりから一騎打ちでの競り合いとなり、予想を大幅に上回る落札価格につながったものと考えられる。
その他、イタリア人彫刻家ジャコモ・マンズーの1984年制作のブロンズ作品「枢機卿」(H96×W37cm)は落札予想価格200万円~300万円のところ680万円で落札。書面入札、電話、会場からも多くのビットが入り高値での落札となった。
日本を代表する彫刻家の一人である平櫛田中の作品が3点出品。平櫛田中といえば、木彫りに彩色を施した七福神像などがポピュラーであるが、今回のセールでは過去にほとんど出品されていない木彫りの仏像2点が出品され、いずれも予想をはるかに超えての高値で落札された。1972年制作の木彫の仏像「南無阿弥陀如来尊像」(H32×W14.6cm)は落札予想価格60万円~90万円のところ、320万円で落札。また同じ1972年制作の木彫の仏像「南無観世音菩薩尊像」(H38.4×W12.4cm)は80万円~120万円の落札予想価格に対し500万円で落札。200万円を超えたあたりから少人数による競り合いでの結果となった。
日本画、洋画の、高値で落札された作品をみてみると、上位5作品は横山大観、レオナール・フジタ、東山魁夷、中島千波、棟方志功の作品であった。
横山大観の作品はH67.5×W80.7cmの絹本に彩色で描かれた額装作品「春之富士」で、落札予想価格2000万円~3000万円のところ3600万円で落札。東山魁夷の作品はH42.8×W57.7cmの1949年制作の絹本に彩色で描かれた額装作品「朝涼」で、1500万円~2500万円の落札予想価格に対し1500万円で落札。中島千波の作品は2001年に制作されたH170×W340cmの四曲一隻の屏風に彩色で描かれた大型作品「醍醐の櫻」で落札予想価格700万円~1500万円のところ1250万円で落札。棟方志功の作品はH82.5×W55.5cmの紙に肉筆で描かれた額装作品「御慈妙図」で落札予想価格1000万円~1500万円のところ1000万円で落札された。
これらの作家作品は、日本のアートマーケットの日本画というジャンルにおいては常にプライスリーダー的な存在にある。バブル時代には横山大観、東山魁夷などは1億円を超える相場を形成していたが、バブル崩壊後には大幅に下落した。その後、良品を中心に、少しずつではあるが相場を持ち直し現在に至る。そういった流れの中でも、日本画の巨匠と言われる彼らの作品は人気が高い。横山大観は今年4月~7月まで東京と京都で生誕150年の展覧会が開催され、東山魁夷は8月~12月にかけて京都・東京で生誕110年の展覧会が開催中で注目を浴びている。こうしたことも市場での活況の大きな要因になったかもしれない。
今年、没後50年を迎えた、フランスに帰化した画家、レオナール・フジタの作品については細かく見ていきたい。現在7月~12月にかけて東京・京都で大規模な回顧展を開催しており、注目されている。今回のセールではフジタの作品は5点出品されており、内容は版画作品1点、水彩画が3点、油彩画が1点セールにかけられた。
22点組のリトグラフ版画作品「四十雀」は落札予想価格40万円~60万円のところ125万円で落札。紙に墨、水彩で描かれたH57.3×W44.8cmの軸装作品「芥子花」は10万円~20万円の落札予想価格に対し115万円で落札。紙に墨、水彩で描かれたH34.0×W68.5cmの額装作品「海の幸」は落札予想価格20万円~40万円のところ110万円で落札。紙に墨で描かれたH54.0×W69.3cmの額装作品、人気の猫がモチーフの「親子猫」は落札予想価格250万円~350万円のところ360万円で落札された。油彩の作品では、1935年制作のH24.5×W33.2cmの「猫」が落札予想価格2000万円~3000万円のところ2000万円で落札となった。油彩の作品以外は落札予想価格上限を超えての落札となっており、手に入れやすい価格帯の作品に人気が集中した。フジタの油彩作品は1000万円を超える作品が多く、中には数千万円の値を付けるものもある。しかしながらドローイング作品については油彩作品に比べ比較的手にしやすい価格帯の作品もある。
フジタの作品の主要モチーフには「少女」「裸婦」「猫」などが知られている。今回のオークションで出品された水彩画の「猫」のモチーフ作品の、最近の5年間の指標をみてみると、2014年以降、相場が上昇しているのが見て取れる。「猫」の水彩画の出品数がそれほど多くないために、オークションでは競り上がるという背景もあるが、時価指数の中央値が右肩上がりになっていることは見逃せない。同じモチーフ・技法で、ここ4年間で時価指数の中央値が2倍近くまで上昇しているのだ。(但し、2014年は小品の出品のみ、2018年は大型の作品が多い)。また、パフォーマンス指標をみると、落札予想価格上限平均を大幅に超える落札価格平均となっている。落札予想価格=予想される相場価格とみれば、市場の予想を超えて高値で落札されているということになる。このように予想を超える高値での落札が続いている相場状況は、没後50年を経ても人気が衰えない作家の良い例ではないだろうか。
会場: SBIアートオークション(代官山ヒルサイドフォーラム)
セール: Modern and Contemporary Art, No. 28
日時: 平成30年7月14日(土曜日) 13:00~
落札総額: 332,723,750円 (Premium込み)
落札率: 84.5%
作品数: 落札360点、不落札66点
今回は7月14日(土)に代官山ヒルサイドフォーラムで開催されたSBIアートオークションについてレポートする。SBIアートオークションは国内外作家の現代アートを取り扱うオークションである。当日、会場に用意されたおよそ80席はほぼ満席で、後方に立ち見客が多くみられ、現代アートへの注目の高さがうかがわれた
今回は国内作家作品291点、海外作家作品135点の合計481点がセールにかけられ、その内訳は絵画作品(写真等含む)341点、その他立体彫刻作品(グッズ等も含む)85点となっている。
出来高は、落札総額が3億3272万3千円(落札手数料15%含む)、落札率は84.5%であった。また今回、落札予想価格の上限を超えて落札された作品は全体の45.4%にのぼり、落札価格総額は落札予想価格上値の総額に対し95.5%という結果を残した。平均落札価格が92万4千円との結果からみても手にしやすい価格帯での良品が多く出品されていたことが伺え、競り状況としても活況であった。
今回のセールで印象的だったのが、評価が上がってきている若手作家がみられたことだ。ロッカクアヤコを筆頭に五木田智央、タカノ綾、名和晃平、桑久保徹など30~40歳代の作家で脚光を浴び始めている作家たちの作品が落札予想価格上限を超えて高値で落札されていた。日本の現代アート市場では1950年代以降の「具体」や「もの派」、1980年代以降の宮島達男や柳幸典、2000年以降の草間彌生、村上隆、奈良美智などの作家銘柄が長く市場の中核を形成してきた中で若手作家が台頭することは困難であったが、昨今のセールをみると近い将来、彼ら若手作家が市場をけん引していく日が来ることを期待せずにはいられない。
では、今回のセールで主だったものを紹介していく。
最初に注目したのが、先月フランス・パリのルーブル美術館にあるガラスピラミッドで立体彫刻作品の新作お披露目を行った名和晃平だ。今回のセールでは2009年制作のミッキーマウス、ミニーマウスをモチーフにした立体作品「PixCell [Toy-Mickey Mouse(from Mickey’s Rival)]」と「PixCell [Toy-Minnie Mouse(Comic Ver.)]」が出品され、それぞれ60~90万円の落札予想価格に対し大幅に超える155万2千円、149万5千円で落札された。また、名和晃平の主要な使用メディアでもあるガラスビーズの2003年制作の立体作品「PixCell-Toy-Stealth」は落札予想価格200~300万円のところ345万円で落札された。落札予想価格を大幅に超える価格での落札がみられたが、今後もこの流れが続いていくのか注目される。
主に少女をモチーフにエロティックな中に不思議さとグロテスクな一面も見せる作風のタカノ綾は2点が出品された。2002年に制作された15.5×21.0cmの紙に水彩とボールペンで描かれた作品「めぐが標識の上であそぶ」が落札予想価格10~15万円のところ50万6千円で落札。もう1点2003年に制作された25.3×31.0cmの紙に水彩の作品「架空の映画のための衣装しょう②」が落札予想価格20~30万円のところ88万5千円で落札。ともに落札予想価格高値のおよそ3倍の値を付けた。
若手作家の中で、価格上昇率で目を見張るのがロッカクアヤコ。段ボールやキャンバスに筆を使わず手指でペインティングする独特の手法で、作風はカラフルで可愛しさがある中に、大きくシンボリックな独特な目つきの少女をモチーフにした作品を多く描いている。そんな彼女の作品が注目され、市場でも評価されてきている。
今回のセールでは段ボールに描かれた作品1点とキャンバス作品2点が出品された。
2007年制作の87.0×77.0cmの段ボールにアクリルでペイントされた作品が落札予想価格80~140万円のところ224万2千円で落札。また2009年制作のキャンバスにアクリルでペイントされた130.0×90.0cmの作品「無題」が落札予想価格300~500万円のところ1069万5千円で落札。会場、電話、書面入札と多くのビットが入り大いに盛り上がった。同じくもう1点、2007年制作のキャンバスにアクリルでペイントされた53.0×65.2cmの作品「無題」も落札予想価格200~300万円のところ632万5千円で落札された。今回のセールで初めてオークション市場で1000万円を超えて落札されたロッカクアヤコの作品だが、今回出品されたような1辺が1mを超える大型の作品の落札価格を中央値で見ると、2013年の時点ではまだ100万円を切る価格帯であったが、その3年後の2016年にはおよそ倍の199万円まで上昇、更に2年間かけ2018年においては3.5倍以上の740万円まで価格が上昇している。(指標グラフ参照)。この5年で7倍以上の価格上昇となったのである。30歳代の若手作家の中では群を抜いて注目されてきている証だろう。現在ドイツ・ベルリンを拠点に、先月までオランダで個展を開催していたロッカクアヤコ。日本、ヨーロッパを活動の中心に置いていた彼女だが、最近ではアジアマーケットでも注目されつつあり相場上昇の一因になっているとみられる。今後の市場動向に大いに注目していきたい。
ロッカクアヤコ同様に注目を浴びているのが五木田智央だ。五木田はイラストレーター出身のアーティストで、雑誌などのイラストを制作していたが近年では絵画を中心に美術館やギャラリーでの個展等で作品発表を行うようになった。今年は1月に香港、4月に東京で個展を開催、9月にはロサンゼルスでも個展を開催しており国内外での評価が高まっている。作風は90年代にはドローイング作品が注目されていたが、近年ではモノクロームのグラデーションで描かれた人物をモチーフにした作品と抽象的な表現をモチーフにした作品を多く描いている。
今回のセールでは、版画1点を含む3点の作品が出品された。
共に2008年制作の60.5×45.7cmの2点組の抽象画の版画作品「Uncovering method」「Weight sensation」は落札予想価格50~80万円に対し、97万7千円で落札。2011年制作のキャンバスにアクリルグアッシュでペイントされた中型のモノクロームの抽象画、53.0×72.7cmの作品「A Bud」は250~350万円の落札予想価格に対し、460万円で落札。そして2009年制作のキャンバスにアクリルでペイントされたブルーを基調にした抽象画、194.0×194.0cmの大型作品「Paraiso」は、落札予想価格600~1000万円に対し、1207万5千円で落札し、すべての作品が落札予想価格上値を大きく上回り落札される結果となった。
五木田の作品は市場での出品数は多いとは言えないが、今回出品されたような抽象的モチーフの作品で1辺が100cmを超える大型作品の直近3年間の値動きを見てみると(指標グラフ参照)、大きく相場が動いていることが見てとれる。2016年では1点の出品であり115万円での落札だったが、2017年においては平均落札価格が816万円に急上昇、2018年では落札平均価格が1000万円を超えてきている。
五木田の作品は先述の通り人物モチーフと抽象的な表現をモチーフにしたものに大別できるが、人物モチーフの作品の方がよりメジャーであり相場も抽象的なものより先行し高値で推移しており、それに追従する形で抽象的なモチーフの作品の相場が上がってきた。また今回のセールでは版画作品も出品されているが、現在はまだ手にしやすい版画作品の価格帯も、今後はオリジナル作品に追従する形で相場が上昇していくのか注目される。
その他、今回のセールでは安定した高値で不動の人気を誇る草間彌生の作品も14点(グッズを除く)出品された。その14点の内、落札予想価格上値を超えての落札が9点となり、相変わらずの人気をうかがわせた。落札予想価格上値の平均が296万4千円に対し落札価格平均が322万5千円という結果からみて上昇相場が続いていることがみてとれる。目立ったところでは版画作品で1982年に制作された65.5×51.0cmのリトグラフにコラージュの作品「かぼちゃ(Kusama4)」が落札予想価格350~550万円のところ610万円で落札。数多くある草間彌生の版画作品の中で、南瓜をモチーフにした最初の作品とあってか人気が集中し高値で落札された。
また今回、過去のセールの状況と変化がみられたのがカウズだ。目が「×」印のキャラクターの立体作品を多く手掛け、ユニクロTシャツブランド「UT」とコラボもしており日本でもなじみの深い作家である。2~3年ほど前までは落札予想価格を大きく超えての落札は、さほど見られなかったが今回のセールでは27点と多数作品が出品(内21点がマルチプル作品)され、そのうち23点が落札予想価格上限を超えての落札となり、落札予想価格上値の2倍を超えて落札された作品も5点あった。落札予想価格上値の平均が96万6千円に対し落札価格の平均が123万4千円であることからも人気の高さを裏付けるものになった。大手企業とコラボすることで認知度が上がりファンを形成することでこのような高値を付けたとみられるが、今後もこの流れが続いていくのか注視していきたい。
次回SBIアートオークションは2018年10月27日 土曜日 13:00~代官山ヒルサイドフォーラムで、続けて11月3日(土)には原宿で開催予定。どちらのオークションにも五木田智央の作品が出品される予定。
※開催日時、出品作品は事前の告知なしで変更になる可能性があります。
【お問い合わせ先】
SBIアートオークション株式会社
〒135-0063 江東区有明3-6-11 TFTビル東館7階
TEL:03-3527-6692 FAX:03-3529-0777 Email:artauction@sbigroup.co.jp
担当:加賀美、塚田
会場: SBIアートオークション(代官山ヒルサイドフォーラム)
セール: Modern and Contemporary Art, No. 28
日時: 平成30年7月14日(土曜日) 13:00~
落札総額: 332,723,750円 (Premium込み)
落札率: 84.5%
作品数: 落札360点、不落札66点
今回は7月14日(土)に代官山ヒルサイドフォーラムで開催されたSBIアートオークションについてレポートする。SBIアートオークションは国内外作家の現代アートを取り扱うオークションである。当日、会場に用意されたおよそ80席はほぼ満席で、後方に立ち見客が多くみられ、現代アートへの注目の高さがうかがわれた
今回は国内作家作品291点、海外作家作品135点の合計481点がセールにかけられ、その内訳は絵画作品(写真等含む)341点、その他立体彫刻作品(グッズ等も含む)85点となっている。
出来高は、落札総額が3億3272万3千円(落札手数料15%含む)、落札率は84.5%であった。また今回、落札予想価格の上限を超えて落札された作品は全体の45.4%にのぼり、落札価格総額は落札予想価格上値の総額に対し95.5%という結果を残した。平均落札価格が92万4千円との結果からみても手にしやすい価格帯での良品が多く出品されていたことが伺え、競り状況としても活況であった。
今回のセールで印象的だったのが、評価が上がってきている若手作家がみられたことだ。ロッカクアヤコを筆頭に五木田智央、タカノ綾、名和晃平、桑久保徹など30~40歳代の作家で脚光を浴び始めている作家たちの作品が落札予想価格上限を超えて高値で落札されていた。日本の現代アート市場では1950年代以降の「具体」や「もの派」、1980年代以降の宮島達男や柳幸典、2000年以降の草間彌生、村上隆、奈良美智などの作家銘柄が長く市場の中核を形成してきた中で若手作家が台頭することは困難であったが、昨今のセールをみると近い将来、彼ら若手作家が市場をけん引していく日が来ることを期待せずにはいられない。
では、今回のセールで主だったものを紹介していく。
最初に注目したのが、先月フランス・パリのルーブル美術館にあるガラスピラミッドで立体彫刻作品の新作お披露目を行った名和晃平だ。今回のセールでは2009年制作のミッキーマウス、ミニーマウスをモチーフにした立体作品「PixCell [Toy-Mickey Mouse(from Mickey’s Rival)]」と「PixCell [Toy-Minnie Mouse(Comic Ver.)]」が出品され、それぞれ60~90万円の落札予想価格に対し大幅に超える155万2千円、149万5千円で落札された。また、名和晃平の主要な使用メディアでもあるガラスビーズの2003年制作の立体作品「PixCell-Toy-Stealth」は落札予想価格200~300万円のところ345万円で落札された。落札予想価格を大幅に超える価格での落札がみられたが、今後もこの流れが続いていくのか注目される。
主に少女をモチーフにエロティックな中に不思議さとグロテスクな一面も見せる作風のタカノ綾は2点が出品された。2002年に制作された15.5×21.0cmの紙に水彩とボールペンで描かれた作品「めぐが標識の上であそぶ」が落札予想価格10~15万円のところ50万6千円で落札。もう1点2003年に制作された25.3×31.0cmの紙に水彩の作品「架空の映画のための衣装しょう②」が落札予想価格20~30万円のところ88万5千円で落札。ともに落札予想価格高値のおよそ3倍の値を付けた。
若手作家の中で、価格上昇率で目を見張るのがロッカクアヤコ。段ボールやキャンバスに筆を使わず手指でペインティングする独特の手法で、作風はカラフルで可愛しさがある中に、大きくシンボリックな独特な目つきの少女をモチーフにした作品を多く描いている。そんな彼女の作品が注目され、市場でも評価されてきている。
今回のセールでは段ボールに描かれた作品1点とキャンバス作品2点が出品された。
2007年制作の87.0×77.0cmの段ボールにアクリルでペイントされた作品が落札予想価格80~140万円のところ224万2千円で落札。また2009年制作のキャンバスにアクリルでペイントされた130.0×90.0cmの作品「無題」が落札予想価格300~500万円のところ1069万5千円で落札。会場、電話、書面入札と多くのビットが入り大いに盛り上がった。同じくもう1点、2007年制作のキャンバスにアクリルでペイントされた53.0×65.2cmの作品「無題」も落札予想価格200~300万円のところ632万5千円で落札された。今回のセールで初めてオークション市場で1000万円を超えて落札されたロッカクアヤコの作品だが、今回出品されたような1辺が1mを超える大型の作品の落札価格を中央値で見ると、2013年の時点ではまだ100万円を切る価格帯であったが、その3年後の2016年にはおよそ倍の199万円まで上昇、更に2年間かけ2018年においては3.5倍以上の740万円まで価格が上昇している。(指標グラフ参照)。この5年で7倍以上の価格上昇となったのである。30歳代の若手作家の中では群を抜いて注目されてきている証だろう。現在ドイツ・ベルリンを拠点に、先月までオランダで個展を開催していたロッカクアヤコ。日本、ヨーロッパを活動の中心に置いていた彼女だが、最近ではアジアマーケットでも注目されつつあり相場上昇の一因になっているとみられる。今後の市場動向に大いに注目していきたい。
その他、今回のセールでは安定した高値で不動の人気を誇る草間彌生の作品も14点(グッズを除く)出品された。その14点の内、落札予想価格上値を超えての落札が9点となり、相変わらずの人気をうかがわせた。落札予想価格上値の平均が296万4千円に対し落札価格平均が322万5千円という結果からみて上昇相場が続いていることがみてとれる。目立ったところでは版画作品で1982年に制作された65.5×51.0cmのリトグラフにコラージュの作品「かぼちゃ(Kusama4)」が落札予想価格350~550万円のところ610万円で落札。数多くある草間彌生の版画作品の中で、南瓜をモチーフにした最初の作品とあってか人気が集中し高値で落札された。
また今回、過去のセールの状況と変化がみられたのがカウズだ。目が「×」印のキャラクターの立体作品を多く手掛け、ユニクロTシャツブランド「UT」とコラボもしており日本でもなじみの深い作家である。2~3年ほど前までは落札予想価格を大きく超えての落札は、さほど見られなかったが今回のセールでは27点と多数作品が出品(内21点がマルチプル作品)され、そのうち23点が落札予想価格上限を超えての落札となり、落札予想価格上値の2倍を超えて落札された作品も5点あった。落札予想価格上値の平均が96万6千円に対し落札価格の平均が123万4千円であることからも人気の高さを裏付けるものになった。大手企業とコラボすることで認知度が上がりファンを形成することでこのような高値を付けたとみられるが、今後もこの流れが続いていくのか注視していきたい。
次回SBIアートオークションは2018年10月27日 土曜日 13:00~代官山ヒルサイドフォーラムでの開催を予定しています。
※開催日時は事前の告知なしで変更になる可能性がございます。
【お問い合わせ先】
SBIアートオークション株式会社
〒135-0063 江東区有明3-6-11 TFTビル東館7階
TEL:03-3527-6692 FAX:03-3529-0777 Email:artauction@sbigroup.co.jp
担当:加賀美、塚田
会場: シンワオークション(シンワアートミュージアム)
セール: 近代美術 戦後美術&コンテンポラリーアート/近代美術PartⅡ
日時: 平成30年5月19日(土曜日) 15:00~
落札総額: 673,965,000円(落札手数料含まず)
落札率: 84.85%
作品数: 落札308点、不落札55点
今回は4月19日(土)にシンワアートミュージアムで開催されたシンワアートオークションについてレポートする。シンワオークションの特徴としては国内外のすべてのジャンルの作品が出品されているが、特に日本画、洋画については力を入れているように見受けられ、良質な作品が多数出品されている。
今回は国内作家作品312点、海外作家作品51点の合計363点がセールにかけられ、その内訳は絵画作品(油彩・水彩・日本画)221点、版画97点、立体彫刻その他が45点となっている。
出来高は落札総額6億7396万5千円(落札手数料含まず)、落札率は84.85%であり、前回今年3月に同会場にて行われたセールと比較すると点数は46点ほど、落札率が4.4%ほど減ってはいるものの、落札総額は1億3900万円ほど増加、落札平均価格は前回およそ146万1千円に対し218万8千円と増加している。また、落札予想価格上限を超えての落札は28.1%となっており全体を通して活況なセール状況をうかがわせる。
日本画では東山魁夷の作品については版画作品2点、彩色作品2点が出品されたがすべての作品で落札予想価格上限を超えての落札。版画作品では「明宵」「夏山白雲」の2点がそれぞれ落札予想価格20万円~30万円のところ「明宵」が38万円、「夏山白雲」が50万円と落札予想価格上値を超えての落札。また紙本・彩色作品では昭和58年制作の「明宵」(31.3cm×44.2cm)は1500万円~2,000万円の落札予想価格に対し3,100万円で、昭和37年制作の「湖静寂」(46.2cm×61.3cm)は1500万円~3,000万円の落札予想価格に対し3,700万円で落札と、事前入札、電話、会場からのビットが入り活況な競りとなっていた。
洋画では今年没後50年を迎えても今なお人気が高い藤田嗣治(※フランス帰化)の作品も版画1点、水彩画2点、油彩画3点合計6点がセールにかけられ、内4点が落札予想価格上限を超えての落札となった。特に版画作品「眠る親子猫『猫』より」は50万円~80万円の落札予想価格に対し320万円で落札、小品ながら油彩作品の「夏に咲くバラ」(24.1×19.2cm)が1,000万円~1,500万円の落札予想価格に対し1,750万円、同じく油彩作品の「少女と猫」(18.0×14.2cm)も2,000万円~3,000万円の落札予想価格に対し3,400万円と活発にビットが入っていた。
そして小磯良平の1969年制作の油彩画「若い娘の肖像」(90cm×90cm)においては電話、そして会場内での白熱したビットにより落札予想価格2500万円~4,000万円のところ6,600万円で落札され大いに盛り上がっていた。
今回のセールの傾向として垣間見えたのが日本画、洋画共に決まりきった伝統的なモチーフの作品へのビットがあまり多くなく、逆に同じジャンル、同じ作家の中であっても今までは比較的安価であったが、現代に通じるモダンなモチーフの作品に人気が集まり、落札予想価格を超えての落札が多く見受けられた。それは昨今の日本の住宅やオフィスのインテリアのモダン化も影響していると考えられ、改めて評価されてきているのかもしれない。今回のセールに出品された日本画の中では手塚雄二の53×41cmの作品「光月幸」が100万円~180万円の落札予想価格に対し260万円で落札、川端龍子の45.6×56.6cmの作品「富士飛龍」が20万円~40万円の落札予想価格に対し90万円で落札された。また、洋画の中では熊谷守一の15.6×22.5cmの作品「裸婦」が落札予想価格500万円~800万円のところ920万円で落札された。
また戦後美術・現代アートのセールでは、人気作家草間彌生の作品が版画10点(シルクスクリーン9点・エッチング1点)、立体オブジェ(マルチプル)6点、油彩画1点の計17点が出品された。版画作品では10点中8点が、立体オブジェも6点中5点が、落札予想価格上限を超えての落札となり相変わらずの草間人気をうかがわせていた。草間彌生の版画作品の中でも南瓜をモチーフにしたものが不動の人気を誇っているが、近年相場が高騰。それにつられて今までは「南瓜」の作品と比較して安値で推移してきた「果物」や「花」をモチーフにした作品も人気が高まってきた。
今回も「果物」のモチーフ作品が2点セールにかけられたが、それぞれ100万円~150万円の落札予想価格に対して210万円、220万円と予想を超えての落札になっている。
また、今回エディション部数が少ないシルクスクリーン/キャンバスの版画作品(2007年制作)「朝のめざめ」(130.7cm×162.2cm)もセールにかけられた。会場と電話からのビットの応酬により落札予想価格500万円~800万円のところ2,600万円で落札。美術品二次市場にめったに出てこない貴重な作品ということもあり高値で落札されていた。
また1点出品された油彩作品2006年制作の油彩作品「Infinity Nets」(194cm×194cm)においては落札予想価格8,000万円~1億2,000万円のところ1億3,000万円で落札、今回のセール全体を通しての最高額での落札となった。
そしてもう一人日本の現代アートを代表する作家のひとりとして海外でも評価が高く、ここ数年を見ても二次市場での価格上昇率が高い奈良美智の作品も出品された。作風としては独特な、とりわけ大きく睨むような目つきをした少女をモチーフにしたドローイングや、犬をモチーフにしたオブジェなどがある。
そんな奈良美智の作品が今回のセールで3点出品された。1点は1992年に紙にアクリルで制作された29×41cmの作品「ダイオキシン」。落札予想価格200万円~300万円のところ290万円で落札。また2点は版画作品で、うち1点はシルクスクリーンで2003年制作の「Star Island」で落札予想価格120万円~200万円のところ210万円で落札、もう1点は2009年制作の木版画作品「Mellow Girl !」で落札予想価格80万円~120万円のところ115万円で落札された。
奈良の代表的なモチーフである少女のモチーフ作品は、オリジナルのドローイング作品であれば既にオークション市場では数百万円~1千万円を超している。その中で版画作品は2015年以前であれば100万円を切る価格で比較的入手しやすかった。ところが、指標グラフを見てわかるように、ここ3年で200万円を超す落札価格まで上昇している。
今回出品されたシルクスクリーン版画「Star Island」の時価指数中央値を見ても毎年およそ2割以上の上昇率で、ここ6年で3~4倍以上の落札価格になっている。また近年ではアジアマーケットでも人気が高まっているとみられその価格上昇にさらに拍車をかけており、価格上昇率においてはあの草間彌生を凌ぐ勢いである。この上昇トレンドはまだ収まる気配が見えないが今後どこまで続くのか注視していきたい。
会場: マレットジャパン(マレットジャパン オークションハウス)
セール: SALE 2018.5.17
日時: 平成30年5月17日(木曜日)15:00~
落札総額: 178,925,000円(手数料含まず)
落札率: 71.6%
作品数: 落札164点、不落札65点
今回は5月17日(木)に開催されたマレットジャパンのアートオークションについてレポートする。マレットジャパンは主に国内外の近現代アートを取り扱うオークションハウスである。
今回は国内作家作品123点、海外作家作品106点 合計229点がセールにかけられその内訳は 絵画作品(油彩・水彩)94点、版画作品(写真含)115点、立体彫刻その他が20点となっている。
出来高は落札総額1億7892万5千円(落札手数料含まず)、落札率70.3%であり今年3月に同会場にて行われた前回のオークションと比較すると出品数で46点減少しているものの、落札総額ではおよそ5700万円上回っている。
マレットジャパンの特徴としては近現代の中堅作家作品にフォーカスをあて、まとまった点数で出品されることが多い。前回と今回においては津高和一、田淵安一や間部マナブ、堂本尚郎、そして特集として前述の作家以外にも1950年代に制作された総勢15作家の作品がセールにかけられていた。
1950年代前後に派生した戦後の現代美術は60年ほどの歴史の中、二次市場で評価されてこなかった。しかし草間彌生、奈良美智、村上隆などが海外で脚光を浴びマーケットを形成してきた中でその他現代美術作家についてもマーケットが形成されつつある。つまり戦後現代美術全体の再評価、底上げである。
その中で今回のマレットジャパンのセールで目を引いたのが間部マナブである。水彩画1点、油彩画7点が出品され全ての作品が落札、そのうち半数の4点が落札予想価格上限を超えて落札されていた。この傾向が続いていくのか今後も注目をしていきたい。
また1950年代作品特集の中では中国の作家 趙 無極【Zao Wou-ki】(※フランスに帰化)の1956年に制作された2号(24cm×19cm)油彩作品も市場予想より高値で落札された。落札予想価格は500万円-700万円ということだったが中国、台湾、香港からの電話による入札が多く入り競りが白熱。落札予想価格下限のおよそ5倍の2400万円で落札された。昨今の国内オークション会場では中国人作家の作品が中国、台湾、香港から入札が多く入り、予想を超えて高値が付く傾向がみられ、今回もその流れと同様の競りとなった。
海外で白熱している海外作家の作品価格の伸びも見逃せない。日本の美術品市場における海外作家のマーケットで最も堅調な動きを見せているのがアメリカの代表的なポップアーティストであるアンディー・ウォーホルの作品である。今回のセールではシルクスクリーン版画作品7点がセールにかけられた。アンディー・ウォーホルの作品は没後30年を経過しても今なお国内外のオークションで人気を博しており、今回セールにかけられた代表的なモチーフの作品、1969年制作の「キャンベルスープⅡ」のシルクスクリーン版画作品では、落札予想価格200万円-300万円のところ330万円で落札。同じく1964年制作のシルクスクリーン版画作品「フラワー」が100万円ー150万円のところ220万円で落札。1975年制作「ミックジャガー」も300万円ー400万円の落札予想価格のところ540万円、1981年制作の「スーパーマン」も1000万円ー1500万円の落札予想価格に対し1850万円で落札された。今回出品された7点の版画作品すべてが落札予想価格上限を超えての落札となり、変わらぬウォーホルの人気をうかがわせた。
次回のマレットオークションは2018年7月19日 15時~マレットジャパンオークションはウスでの開催を予定しております。
※開催日時は事前の告知なしに変更になる場合がございます。
【お問い合わせ先】
株式会社マレットジャパン
〒135-0016東京都江東区東陽3-22-6 東陽町AXISビル1F
TEL:03-5635-1777 FAX:03-5635-1778 E-mail:info@mallet.co.jp